幼い頃に母親に引っ付いて一緒に行った市場の記憶。市場はさまざまな香りに満ちていて、野菜、新鮮な肉魚、白い湯気を立てる熱々の美味しい食べ物があふれていました。市場はその地元の日常生活を映しだします。食べ物は水源と密接に関係しており、豊富な水源によって灌漑された田園風景が始まる源流にまで遡ることができます。その中には予想だにしない台湾の魅力も広がっています!
今回私たちは新竹の竹東を訪れ、竹東にある台湾最大の客家の市場で、竹東の食卓の風景を見つけました。有名なドラマ「一把青(A Touch of Green)」や「下一站幸福(秋のコンチェルト)」の撮影現場を訪れ、50年代のようなレトロな写真を撮影してもらいました。旅の最後には、竹東の源流に戻り、田園の水路沿いを散策し、田畑とテクノロジーが共存する風景を見ました。竹東の隠れスポットである虹の村を訪れ、千人壁画から客家の農村の哲学を感じた50~60年代のノスタルジーを探す旅です。
新竹の竹東はかつて「樹杞林」と呼ばれ、台湾三大鎮の一つであり(鎮は台湾の行政区分の一つ)、主に客家人が暮らす町です。客家文化に満ちた小さな町で、かつては石油、石炭、木材、セメント、ガラスなどの産業が非常に発展した、新竹県の商工業の中心地でした。近年では、高度な技術開発の中心地として変貌しています。
「都市を理解する最良の方法は市場から始まる」と言いますが、この日は竹東鎮役所から出発し、台湾最大の客家市場で客家の伝統的な食を探りました。何気ない市場の中には、安くてボリューム満点なたくさんのグルメが隠れており、また、市場の人たちとの会話から市場での日常を知ることができました。すべてが濃厚な人情味と温かさに溢れていました。
朝、新竹竹東中央市場は買い物かごを抱えた人々で溢れかえり、新鮮な食材を選ぶ人々が賑やかに行き交います。活気のある光景は天候も関係なく、日常使いの食料品や生活用品の諸々はすべてこちらで揃います。そのため中央市場は「中央百貨店」とも呼ばれ、過去には韓国映画『工作』のロケ地にもなりました!
私たちは竹東天主堂をスタート地点とし、竹東中央市場への冒険に出発。異なる視点から客家の伝統的な市場の姿を見つけに行きます。
中央市場では、紅糟雞肉(紅麴に漬けた鶏肉)や客家の粄條(米で出来た平麺)、米苔目(米の麺)、素食炸菜(野菜のかき揚げ)、米糕(もち米のおこわ)などが販売されており、私たちを客家の食文化の探求へと誘います。特に素食炸菜は、子供時代のことを思い起こさせます。私の家族はベジタリアンだったため、お祝いごとやお正月に祖母の家に行くと、祖母がいろいろな野菜に粉をまぶしサクサクに揚げた丸い料理を出してくれました。後にその料理が「炸菜」と呼ばれるものだと知りました。高齢のため祖母が料理をすることができなくなった時、炸菜は忘れられない思い出の味になりました。
中央市場は、打幫你樂團(DaBangNi)というバンドの「客家阿婆」 (客家のおばあちゃん)という曲のミュージックビデオのロケ地にもなっています。一見普通の市場ですが特別な雰囲気に仕上がっています。
- 住所: 新竹県竹東鎮東林路88号
- 営業時間: 月曜~日曜 6:00 – 12:00
- 電話:+886-3-596-6177
華光照相館は開業して60年以上、伝統的で素朴な店構えを残す古い写真館です。この旅のガイドさんの両親もこちらでウェディング写真を撮影したのだそう。様々な時代の涙に満ち満ちた写真館には、竹東の人々の幼少期から大人になるまでの様々な思い出が記録されており、その懐かしさとノスタルジックな雰囲気から、「一把青」(A Touch of Green)、「下一站幸福」(秋のコンチェルト)、「真愛黑白配」(Love Around 恋するロミオとジュリエット)など、多くのテレビドラマや映画のロケ地になっています。
沢山の50〜60年代の古い写真を見て遠き時代の様相を想像するだけではありません。華光照相館に来たのなら、時代感溢れる写真を撮らなくちゃ!撮影スタジオのセットはとても風情があり、なんだか子供の頃に見たことがあるような懐かしさがあります(笑)。撮影時はどんな写真になるのか楽しみでしたが、出来上がった写真は想像以上に素晴らしい出来栄え!帰宅してから額装して飾りたくなりました(笑)。
- 住所: 新竹県竹東鎮仁愛路312号
- 電話: +886-3-596 – 3312
- 営業時間: 月曜~土曜 8:00 – 12:00 / 14:30 – 20:00(日曜休み)(木曜は8:00-12:30)
竹東天主堂の正式名称は「竹東無玷聖母堂」で、1954年にスペイン出身の神父Germán Alonsoが海外からの寄付で建設した教会です。戦後新竹地区に建てられた最初の大きな教会で、現在では70年以上の歴史を持ちます。竹東天主堂は改良されたゴシック様式の教会であり、灰色の人造石洗い出しの壁面にはイエス・キリストの像が刻まれ、丸いバラの窓と高い鐘塔があり、歴史的な意味を持っています。
- 住所: 新竹県竹東鎮東林路72号
- 電話: +886-3-596 – 2341
薄暗い竹東の旧市場「商華市場」に入ると、狭い路地に隠れるように新福飲食店はありました。ここはまさに客家料理の隠れた名店。新福飲食店の前身は「醉月樓」という名の酒楼(高級料理店)でしたが、第二次世界大戦後、酒楼の衰退に伴い食堂へと転換されました。一世紀以上の歴史を持ち、現在は三代目。伝統的な客家料理だけではなく、客家の伝統精神も受け継がれています。
客家小炒(客家風炒め)、湯圓(ひき肉入り白玉だんご)、老菜脯雞湯(古大根と鶏のスープ)、梅干獅子頭(からし菜と肉団子の煮込み)、どれも伝統的な客家料理で、台北で育った私にとってはあまり馴染みのない料理がばかりです。普段、しょっぱい系の湯圓は好んで食べないのですが、こちらの湯圓は私好み。柔らかくなめらかな湯圓にしっかりとした味のスープが合わさって、湯圓のつるんとした食感を引き立てています。酸菜肚片湯は酸菜(からし菜を発酵させたもの)を煮込こんだスープで、たっぷりの酸菜と豚の胃袋が入っており、ちょっと酸味のある味わいが食欲をそそります。
- 住所: 新竹県竹東鎮商華街41巷10号
- 電話: +886-3-596 – 2462
- 営業時間: 月曜~木曜 10:30 – 14:00 / 金曜・土曜10:30 – 14:00、17:10 – 19:30(日曜休み)
車に乗って20分ほど進むと、賑やかな市街地から静かな農村の風景に変わります。緑の山々が目の前に広がり、周囲には山霧が立ち込め、まるで桃源郷に来たような雰囲気です。
私たちは小道を歩いて竹東圳の水源を探します。宝山ダムは新竹サイエンスパークの水源地です。ここの水は農作物だけでなく、半導体までも育てているといえます(笑)。竹東圳はオフストリームダム方式の宝山ダムへ導水するための水路で、整備された部分の水路の景観は大きく異なります。竹東圳は灌漑用水だけでなく、生活用水や産業用水も供給しており、歩いているとかつての水路の遺構に出くわすこともあります!
「水頭伯公」とも呼ばれる土地公は、水路の守り神としての役割を担っており、通常は水路工事が上手くいくことを祈願して水路の傍に祀られます。軟橋里四鄰はかつて「瓦屋下」という地名で呼ばれていました。これは日本統治時代に彭姓の人々が暮らした集落に由来し、その名前がついたものです。そのため、ここの水頭伯公は「瓦屋下伯公」と呼ばれています。
かつて竹東圳の水路工事が行われた際、昼間は作業が順調に進むものの、夜になると崩壊するという状況が続いたのだそう。最終的には水頭伯公が祀られてから、この工事が順調に完了したといわれており、客家の方たちの水頭伯公への信仰の深さがうかがえます。
軟橋の田舎道をのんびり歩くと、さわやかな空気の中に自然の清々しい香りが漂い、心がほどけるような安らぎを感じます。どこか懐かしく素朴な風景が、非日常的な光景として目に映ります。軟橋圳のそばには「洗衫坑」と呼ばれる石で作られた天然の洗濯場があります。約4、50年前の台湾では、多くの女性が洗濯坑で衣類を洗濯し、洗い終わったものを持ち帰って干していました。これは大変な仕事でしたが、時代の変化を経て、洗濯坑は徐々に忘れ去られ、農村の特別な風景となっています。
壁画と言えば、台中にある有名な虹の村を思い浮かべますが、竹東の軟橋社区にも隠れた虹の村があります。こちらは人も少なく、環境も静かで、濃厚な客家文化を感じられます。村全体にカラフルな絵が描かれていて、軟橋に若々しさと活気をもたらしています。
これらの絵の多くは、軟橋の住人である吳尊賢氏によるものです。「絵を使って、軟橋にもっと多くの人たちを呼び込み、地域を活気づけると同時に、お年寄りとの交流も深めてもらいたい。」と述べる吳氏の心の師は台中虹村のお爺さん。80歳、90歳のお爺さんができるのなら、自分にもできるはずだと感じているのだそう。
- 住所: 新竹県竹東鎮東峰路軟橋社区
息を切らして坂道を上ると、軟橋で最も人気の観光スポット「千人の幻想的壁画ハウス」にたどり着きました。ここ描かれている壁画は特に鮮やかで目を引きます。独特な個性に溢れており、若者らしい絵のスタイルが特徴です。描かれている絵にはさまざまな物語や意味が込められており、現代社会をを皮肉ったり、人として持つべき美徳を呼び掛けたりしています。これを「現代版の浮世絵」と称する人もいるのだとか。
「千人の幻想的壁画ハウス」は呉氏の義父の家なのだそう。ここにある軟橋商店には、昔ながらのピーナッツ菓子や仙草茶、茶葉たまごなどなど様々なものが売られています。ここに来たらついでに軟橋商店でお宝探しをするのをお忘れなく(笑)
- 住所: 新竹県竹東鎮軟橋31之1号
- 電話: 0937 154 616
- 営業時間: 週末9:00 – 18:00(平日休み)
今回の新竹の旅の思い出は、口に広がる味だけではなく、客家の伝統市場の香りも含んでいます。それぞれの香りは年月を重ねた生活の様相であり、それらが大好きな料理となって食卓に現れます。これらの料理は単なる食べ物ではなく、伝承と記憶を意味するもの。この記憶が私たちをルーツ探しの旅へと導くのです。古き良き5、60年代にタイムトラベルし、新旧が交差する様を探しに行きましょう。新竹竹東を一緒に散策しましょう!