「拜拜」(お祀り)は、台湾の伝統的な風習です。子供の頃は、平安を祈る以外にどんな意味があるのかよく理解できませんでしたが、大人になってから、拜拜は、心を委ねることであり、神にお願いごとをするだけでなく、人々の心を慰め、また祭事の文化を通じて地域の風習や思いを知る手段でもあるということが分かってきました。
今回、私たちは人情味あふれる客家の小さな町、新埔にやってきました。3つの通り、6つの小道、9つの祠堂を巡り、この壁のない博物館で時空を旅しました。100年の歴史を持つ紙細工の工房を訪れ、紙細工が祭祀の道具だけでなく貴重な芸術品でもあることを知り、新埔の古い街の店を巡り、神拜用品について学びました。旅の最後は柿渋染の工房を訪れ、柿が水彩顔料になることを知り、自分で染め上げて作ったかわいいペンケースはこの旅の最高の思い出の品になりました。
新埔と言えば、太陽に晒された丸々とした黄金色の柿を思い浮かべます。これらの柿は柿餅や干し柿になり、また布を大地の色に染め上げることもできます。これが新埔を代表する風景です。
新埔はかつて「吧哩嘓」(Pa-lí-kok)と呼ばれ、平埔族であるタオカス族の狩猟場でした。少数の客家系漢人が入墾後、荒れ地を農地へと切り開き、「新埔」と呼ばれるようになりました。これは「新しく開発された土地」という意味があります。客家人の開墾と耕作により、新埔は徐々に繁栄し、サトウキビ、茶、樟腦の三大経済作物の集散地となり、その繁栄ぶりは竹塹城(新竹の古い名称)に匹敵するほどでした。
伯公とは土地神を指す客家人の呼び名で、祖父の兄を意味し、家族のような親しい関係を表しています。今回の旅は伯公廟から始まります。
新埔には台湾全体で最も密集して客家の「宗祠」(祖先を祀る祠堂)と「家廟」(祖先を祀る廟)が存在しています。新埔の「3街6巷9宗祠」(3つの通り、6つの小道、9つの祠堂)は、近年沢山の旅行者が訪れる人気の観光スポットです。さながら壁のない博物館のように、大通りや小道を歩くと町の至る所にかつての面影を見ることができます。
新埔和平街には、朱氏家廟、劉式家廟、新埔潘宅があります。特に新埔潘宅には、広い緑の中庭や素朴で味わい深い赤レンガの壁が、年月を経て趣のある悠然とした雰囲気を漂わせており、道行く人たちの目を引きます。潘宅は風水学的に言う蟹穴の上に建てられており、建物全体が左右に広がり前後に短い、まるで蟹の甲羅のような形状をしています。これは蟹穴が生命力に満ちていることを象徴しています。
廣和宮は王爺宮とも呼ばれ、主に客家人の精神的信仰である「三山国王」を祀っています。新埔は百年以上昔に平埔族のタオカス族によって発見された新しい開墾地であり、その厳しい環境下での順調な開墾を祈願して廣和宮が建立されました。過去、新埔の重要な行政や民間活動はほぼすべて廣和宮で行われてきました。
廟の最も特徴的な点は、廟内外の飾り付けが対場作と呼ばれる技法を採用していることです。正門上の吊筒や、梁と柱が直角に交わる部分にある鳳凰雀替、梁下の獅の彫り物、短く下がった柱の吊筒垂花など、当時の職人が競い合って造り上げた見事な技法を見ることが出来ます。
- 住所: 新竹県新埔鎮中正路608号
新埔民俗工芸店は百年以上の歴史を持つ伝統的紙工芸のお店です。かつては廟の祭りや、祭事の際に建てられる祭壇や装飾、提灯や大型の花灯、屋外の照明装飾などが主な活動の範囲でした。近年では、芸術的な創作のデザインが加わり、各地のアートイベントなどでこちらの作品を見ることができます。店内に入ると、まず人の背丈ほどもある芸術作品のように精巧に作られた大士爺の像が目に入ります。店内には様々な神様のお面があり、その反対側には各神の紹介がされています。
- 住所: 新竹県新埔鎮中正路640号
- 営業時間: 週一到週六 8:00 – 17:00 (週日公休)
新埔の静かな通りには、一見普通の住宅のように見えて、実は長い年月を経て今に至る伝統的な老舗がたくさん隠れています。例えば、板條(米で出来た平麺)店、豆腐店、鍛冶屋、茶室など。義順冰店は、新埔に唯一残る伝統的な手作りアイスキャンディを売る店で、日本統治時代に開業し、100年以上の歴史があります。手作りと本物の材料にこだわったアイスキャンディは、口当たりなめらか。しかも、今では珍しいたったの13元です。
私たちは金桔味と米糕味を試しました。金桔は懐かしい風味で、酸味と甘さがあり、すっきりした味わいです。米糕はまるで酒香る竜眼の甘いおこわ(桂圓米糕)、非常に特別な味わいでした。
- 住所: 新竹県新埔鎮成功街99号
- 営業時間: 月曜~日曜 10:00 – 17:00 / (不定休、16時閉店の場合もあり)
- TEL:+886-3-588-2143
新埔の古い通りを歩くと、あちこち目移りして、ついつい立ち止まってしまいます。漬物、金柑の砂糖漬け、金柑ソース、仙草茶などなど、客家を代表する伝統的な食材とグルメが立ち並んでいます。
進有商行は50年代に創業した飼料店です。昔は鶏やアヒルなどの家禽を育てる家が多く、それらの飼料を販売していました。豆餅も飼料の一種で、大豆のかすを圧縮して作る円型状の飼料です。成型された豆餅は22キロほどあり、粉砕機で必要な大きさに分けて販売します。家禽の飼養者が減少している現在はさまざまな穀類を販売しています。
- 住所: 新竹県新埔鎮中正路311巷25号
- 営業時間: 月曜~金曜 7:00 – 17:00
呂順興西餅糕點の入口には、清代の同治二年に創業したことを示す大きな文字が掲げられています。ここは100年以上の歴史を持つ老舗の菓子店です。店内には馴染み深い懐かしい味わいの伝統菓子が販売されており、蛋黃酥(卵の黄身を使った菓子)、中式大餅(伝統菓子)、番薯餅(さつまいも菓子)や米糕(もち米で出来た甘いおこわ)などが並んでいます。特筆すべきは、店内には日本統治時代の菓子用の印や、昔の台湾の結婚式で使われていた飾りや嫁入り道具の籠、柄に「呂順興」という店の名前が刻まれた天秤棒など、様々な道具が展示されていることです。菓子店でありながらまるで博物館のような雰囲気を漂わせています。
- 住所: 新竹県新埔鎮中正路312号
- 営業時間: 月~日 6:30 – 22:30
日勝飲食店は60年以上の歴史を持つ伝統的な客家料理のレストランです。蔣經國前総統が3度も訪れたほどの美味しさです(笑)。この日は平日の昼間に訪れましたが、1階はほぼ満席で、静かな街並みとは対照的です。
私たちは日勝飲食の看板メニューである板條炒め、日勝腸詰め、わらび、客家風炒め、焼き豚足、鶏と仙草のスープ、金桔葉と腸詰めのスープなどを注文しました。豚足は油っこいという印象がありますが、こちらの焼き豚足はその印象を完全に覆すほどの美味しさ。脂身も柔らかく、風味豊かな塩コショウを付けてさっぱりといただけます。仙草茶が鳥スープに使われることを初めて知ってびっくり!甘くさっぱりとした非常に特別な味わいでした。他ではあまり見かけない組み合わせです。
- 住所: 新竹県新埔鎮和平街66号
- 営業時間: 月曜~金曜 10:00 – 14:30 / 週末 10:00 – 20:00 (火曜日定休)
新埔柿渋染め工房は、地元の女性達と干し柿の業者が一緒に設立した工房で、手作りの柿渋染め製品が展示・販売されています。服、トートバッグ、ハンドバッグなど、柿渋染めの布地から作った商品や料理に至るまで、非常に創造性に富んでいます。今回は、柿渋染めで世界に一つのオリジナルな記念品を作って帰ります!
この地域では柿のシーズンになると、おじいさんおばあさん達が椅子に腰かけ、柿の皮を剥いて副収入を得ています。ある日、壁に柿の汁が着いた手形を偶然見つけ、それが柿渋染めのアイデアにつながりました。廃棄される予定の柿の皮から染料を抽出し、今日見られる柿渋染めの芸術品に変えたのです。まさに不要なゴミを金へと変えた典型的な事例です。
まずは壁に掛けてある様々な型の中から自分の好きな図案選びます。可愛らしい動物や花の模様などたくさんありますが、私は今回のテーマに合わせて柿が並んだ図案を選びました。型を無地のペンケースにテープで貼り付け、刷毛を使って丁寧に柿の汁を塗っていきます。最後に固定剤である酢酸液を塗ると作業は完了です。型を外す時は、まるで抽選結果を待つような気分。完成した作品を見て、とっても癒されました!
今回体験した柿渋染めは簡単で、癒しの効果も抜群!この旅の最高の思い出の品になりました!
柿渋染め体験終了後に立ち寄った1階にある柿渋染めハンドメイドグッズの売り場はとってもクリエイティブ。まるで台北の華山1914文創園区に来たよう(笑)。どの商品もオリジナリティに富んで魅力的です。ここに来たら、好みの商品を探す以外にも、写真を撮るのをお忘れなく!